ECONOMETRICS — REGRESSION & CAUSALITY
回帰係数は読めても、
因果と言えないのはなぜか。
計量経済学の難所は、計算した係数の意味と、そこから言ってよい結論の範囲を分けることです。予測値と残差、係数と標準誤差を数値で読み、欠落変数の影響が係数へ混ざる仕組みまで進みます。
FIRST BOTTLENECK
母集団の式と、手元で推定した式を分ける。
母集団の係数
本当に知りたい未知の関係。標本から直接は見えません。
推定された係数
手元の標本から計算したβ₁の推定値。標本が変われば値も変わります。
誤差項
母集団モデルで式に明示されない要因。通常は直接観測できません。
残差
標本内で計算できる、実測値と推定回帰式の予測値の差です。
誤差項uと残差eを同じものとして書くと、母集団で仮定していることと、標本から計算した結果が混ざります。
QUICK DIAGNOSIS
回帰式を「計算・解釈・限界」の3層で読む。
推定式が ŷ = 40 + 2.4x で、xは学習時間、yは試験得点とします。
予測値
x = 5時間のときの予測得点は?
答えと診断
40 + 2.4×5 = 52点。推定回帰線上の値であり、全員の実測値が52点になる意味ではありません。
残差
実際の得点が56点なら残差は?
答えと診断
e = 56 − 52 = 4点。回帰式の予測より4点高かったという標本内の差です。
係数
b₁ = 2.4をどう読む?
答えと診断
学習時間が1時間異なる学生の間で、予測される得点は平均2.4点異なります。この式だけで「1時間増やせば2.4点上がる」とは言えません。
READ A REGRESSION TABLE
係数2.4だけでは、まだ判断できない。
| 変数 | 係数 | 標準誤差 | t値 | 95%信頼区間 |
|---|---|---|---|---|
| 学習時間 | 2.40 | 0.80 | 3.00 | [0.83, 3.97] |
| 定数項 | 40.00 | 3.20 | 12.50 | [33.73, 46.27] |
学習時間が1時間異なると、得点の条件付き平均は2.4点異なります。
t = 2.4/0.8 = 3。標準誤差に比べて係数がどれほど0から離れているかを見ます。
95%信頼区間は0を含みません。この標本と仮定の下では、0との差が統計的に確認されます。
有意であっても、学習時間を外から1時間増やした因果効果が2.4点とは限りません。
言いすぎる答案学習時間を1時間増やすと、得点が2.4点上がる。
安全な答案学習時間が1時間多い学生は、得点の条件付き平均が2.4点高い。因果解釈には追加の仮定が必要である。
OMITTED VARIABLE BIAS
観測していない「事前理解」が、係数へ混ざる。
本当の得点が、学習時間xだけでなく事前理解zにも影響されるとします。しかしzを回帰式へ入れなかった場合、zの影響は誤差項へ入ります。
事前理解zが学習時間xと得点yの両方に関係すると、xの係数は「学習時間の関係」と「事前理解の関係」を分け切れません。
γはzがyへ向かう関係、δ₁はzとxの関係です。両方が正なら、xだけの回帰係数は本来のβ₁より上へずれやすくなります。
| z → y(γ) | xとzの関係(δ₁) | バイアス γδ₁ |
|---|---|---|
| 正 | 正 | 上向き |
| 正 | 負 | 下向き |
| 負 | 正 | 下向き |
| 負 | 負 | 上向き |
この表は方向を整理する道具です。実際のバイアスの大きさや、変数を追加すれば必ず解決するかは別途確認が必要です。
WHY CONTROLS ARE NOT MAGIC
重回帰に変数を足しても、自動で因果にはならない。
重要な要因を観測できない
能力、意欲、環境などを完全には測れないことがあります。誤差項とxの相関が残れば、OLSの因果解釈は崩れます。
因果の向きが逆かもしれない
学習時間が得点へ影響するだけでなく、苦手な学生ほど長く学習する可能性もあります。
測定誤差がある
自己申告の学習時間が不正確なら、説明変数の誤差が係数へ影響します。
入れるべきでない変数もある
xの後に決まる変数を機械的に統制すると、知りたい効果の一部まで消すことがあります。
因果効果を知るには、無作為化、自然実験、操作変数、差の差など、比較の作り方と仮定を確認します。手法名より先に「誰と誰を比較すればよいか」を考えます。
BEFORE THE EXAM
回帰表は、この7点を順番に読む。
- 被説明変数yと説明変数xは何か
- 水準・対数・比率・ダミーのどの形か
- 係数の符号、大きさ、単位を文章にしたか
- 標準誤差、t値、p値、信頼区間のどれで不確実性を判断するか
- 統計的有意性と経済的な大きさを分けたか
- 誤差項と残差、母係数と推定値を区別したか
- 因果と言うための仮定・比較設計が示されているか
WHEN A REGRESSION TABLE STOPS MAKING SENSE
式変形より、どの言葉を混同しているかを探す。
係数と予測値、誤差項と残差、標準偏差と標準誤差、相関と因果のどこが混ざっているかで、必要な復習は変わります。講義で使う回帰表と問題文に合わせて、最初の1か所から整理できます。
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