ECONOMETRICS — REGRESSION & CAUSALITY

回帰係数は読めても、
因果と言えないのはなぜか。

計量経済学の難所は、計算した係数の意味と、そこから言ってよい結論の範囲を分けることです。予測値と残差、係数と標準誤差を数値で読み、欠落変数の影響が係数へ混ざる仕組みまで進みます。

対象:大学の計量経済学・回帰分析読了目安:11分更新:2026年8月14日

母集団の式と、手元で推定した式を分ける。

母集団モデル:y = β₀ + β₁x + u 推定回帰式:ŷ = b₀ + b₁x 残差:e = y − ŷ
β₁

母集団の係数

本当に知りたい未知の関係。標本から直接は見えません。

b₁

推定された係数

手元の標本から計算したβ₁の推定値。標本が変われば値も変わります。

u

誤差項

母集団モデルで式に明示されない要因。通常は直接観測できません。

e

残差

標本内で計算できる、実測値と推定回帰式の予測値の差です。

誤差項uと残差eを同じものとして書くと、母集団で仮定していることと、標本から計算した結果が混ざります。

回帰式を「計算・解釈・限界」の3層で読む。

推定式が ŷ = 40 + 2.4x で、xは学習時間、yは試験得点とします。

Q1

予測値

x = 5時間のときの予測得点は?

答えと診断

40 + 2.4×5 = 52点。推定回帰線上の値であり、全員の実測値が52点になる意味ではありません。

Q2

残差

実際の得点が56点なら残差は?

答えと診断

e = 56 − 52 = 4点。回帰式の予測より4点高かったという標本内の差です。

Q3

係数

b₁ = 2.4をどう読む?

答えと診断

学習時間が1時間異なる学生の間で、予測される得点は平均2.4点異なります。この式だけで「1時間増やせば2.4点上がる」とは言えません。

係数2.4だけでは、まだ判断できない。

変数係数標準誤差t値95%信頼区間
学習時間2.400.803.00[0.83, 3.97]
定数項40.003.2012.50[33.73, 46.27]
1
大きさと単位

学習時間が1時間異なると、得点の条件付き平均は2.4点異なります。

2
推定の不確実性

t = 2.4/0.8 = 3。標準誤差に比べて係数がどれほど0から離れているかを見ます。

3
統計的有意性

95%信頼区間は0を含みません。この標本と仮定の下では、0との差が統計的に確認されます。

4
まだ言えないこと

有意であっても、学習時間を外から1時間増やした因果効果が2.4点とは限りません。

言いすぎる答案学習時間を1時間増やすと、得点が2.4点上がる。

安全な答案学習時間が1時間多い学生は、得点の条件付き平均が2.4点高い。因果解釈には追加の仮定が必要である。

観測していない「事前理解」が、係数へ混ざる。

本当の得点が、学習時間xだけでなく事前理解zにも影響されるとします。しかしzを回帰式へ入れなかった場合、zの影響は誤差項へ入ります。

事前理解 z→学習時間 x→試験得点 y
事前理解 z→試験得点 y

事前理解zが学習時間xと得点yの両方に関係すると、xの係数は「学習時間の関係」と「事前理解の関係」を分け切れません。

本来の式:y = β₀ + β₁x + γz + u zとxの関係:z = δ₀ + δ₁x + v xだけで回帰した係数 ≈ β₁ + γδ₁

γはzがyへ向かう関係、δ₁はzとxの関係です。両方が正なら、xだけの回帰係数は本来のβ₁より上へずれやすくなります。

z → y(γ)xとzの関係(δ₁)バイアス γδ₁
正正上向き
正負下向き
負正下向き
負負上向き

この表は方向を整理する道具です。実際のバイアスの大きさや、変数を追加すれば必ず解決するかは別途確認が必要です。

重回帰に変数を足しても、自動で因果にはならない。

問題 1

重要な要因を観測できない

能力、意欲、環境などを完全には測れないことがあります。誤差項とxの相関が残れば、OLSの因果解釈は崩れます。

問題 2

因果の向きが逆かもしれない

学習時間が得点へ影響するだけでなく、苦手な学生ほど長く学習する可能性もあります。

問題 3

測定誤差がある

自己申告の学習時間が不正確なら、説明変数の誤差が係数へ影響します。

問題 4

入れるべきでない変数もある

xの後に決まる変数を機械的に統制すると、知りたい効果の一部まで消すことがあります。

因果効果を知るには、無作為化、自然実験、操作変数、差の差など、比較の作り方と仮定を確認します。手法名より先に「誰と誰を比較すればよいか」を考えます。

回帰表は、この7点を順番に読む。

  1. 被説明変数yと説明変数xは何か
  2. 水準・対数・比率・ダミーのどの形か
  3. 係数の符号、大きさ、単位を文章にしたか
  4. 標準誤差、t値、p値、信頼区間のどれで不確実性を判断するか
  5. 統計的有意性と経済的な大きさを分けたか
  6. 誤差項と残差、母係数と推定値を区別したか
  7. 因果と言うための仮定・比較設計が示されているか

式変形より、どの言葉を混同しているかを探す。

係数と予測値、誤差項と残差、標準偏差と標準誤差、相関と因果のどこが混ざっているかで、必要な復習は変わります。講義で使う回帰表と問題文に合わせて、最初の1か所から整理できます。

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